変わらぬ愛しき日常を。






初っ端から、修兵は後悔していた。
研究室に行っても阿近に会えず、暇を持て余した処を乱菊に呼び止められ、フラフラ付いて来た自分を責めた。
彼女の『お茶』が『お酒』である事は重々承知していたのに。

連れて来られた居酒屋の二階の座敷。
乱菊、恋次、イヅル、修兵。
この奇妙な取り合わせで、酒盛りは続いていた。
酒盛りが始まって一時間。
既にイヅルは倒れ込み、仰向けで蒼白な顔面を晒している。


「修兵ぇ、あんたちゃんと呑んでんのぉ?」


「そうスよー!器空っぽじゃないですか!」


既にへべれけとなっている乱菊と恋次は、絶妙のコンビネーションで、次々と酒を勧めて来る。

「や、ちゃんと呑んでますって!」


「ほんとにぃー?」


大瓶を片手に擦り寄って来る彼女に逆らえるはずも無い。
渋々椀を傾け、酌を受けた。


「有難う御座います」


「うんうん、素直なのが一番よね」


「素直な檜佐木さんは可愛いッスよね」


「…くそ阿散井…」


したり顔で頷いている恋次に舌打ちをしつつ、窓の外を見上げる。
雲一つない、青天。
穏やかな日常。
真っ昼間から酒盛りをしている罪悪感は多少残るが、そこには目を瞑りたい。
阿近さんは元気かな、と気持ちを傾けつつあったが、背後の酔っ払い達がその感傷を見事に消し去ってくれる。


「ぎゃははは!イヅル目ぇ剥いてやんの!!」


「なっさけないわねー!」


「…はぁ…」


溜息を零しつつも、椀の中身を一気に空けると、心地良い酔いが身体に広がる。
後ろでイヅルを肴に大爆笑をしている二人を尻目に、修兵はチビチビと酒を呑み続けた。
―――30分もすれば、修兵も酔っ払いに分類されるようになるのだが。








「大体ね、俺の事ほっとき過ぎなんですよ、あの人は!」


「いいじゃない!相手がいるだけ!あたしなんて周りからショタって云われてるんだから!」


「そうッスよ!俺だって朽木隊長超えるまではと禁欲の日々なんスよ!」


「…お前一生禁欲生活じゃないか?」


気持ち良く出来上がった三人は、最早椀を使うのも面倒だと、それぞれ一本ずつ瓶を抱え、
それを煽り呑んでいる。
イヅルは何をされたのか、フンドシ1枚で部屋の片隅に転がされていた。


「…でもね、あたしは隊長をずっと見守り続けていきたいの。恋愛とか、そんなのは別として」


「乱菊さん…」


「うちの隊長はあの年で隊長でしょ。だから心無い連中から批判を受けたりするのよ。
でも、何でもないって顔して、そっと影で傷付いてるの」


「…日番谷隊長らしいですね…」


「大丈夫よ、あたしが居るから。ずっと隊長の傍に居るもの」


乱菊はにっこりと笑んだ。


「…俺、感動しました!どうぞ呑んで下さい!」


今までじっと黙って話を聴いていた恋次が、いきなり大声で喚いた。
泣き上戸なのか、目尻に涙を浮かばせている。
差し出された瓶を受け取り、ラッパ呑みをし始めた乱菊に負けじと修兵も瓶を傾けた。


「がちんこ勝負ッスよ!乱菊さん!」


「望むところよ!」


「すいませーん、おしゃけ追加お願いしまーす」


最早呂律の回らなくなった恋次が階下に居る主人に声をかけた時だった。
誰かが階段を上って来る。
その人物を見て、恋次は目を丸くした。


「阿近さん!」


「…よう.修兵居るか?」


その声に、バッと修兵が階段を見やる。
久し振りの白衣を着ていない、阿近の姿。
酒のせいか、その姿を見たせいか、鼓動が高鳴る。
しかし、その姿を見るや否や、乱菊は修兵をその豊満な胸にぎゅっと抱き寄せた。


「修兵は居ませーん」


「ら、乱菊さん!」


「…松本さん…そいつ渡してくれないか?」


「ダメよ。あたし達の可愛い修兵を泣かすような人に修兵は渡せないわ」


「そうッスよねー俺らの檜佐木さんなのにー」


ケラケラと笑う乱菊に、釣られるように恋次も笑った。
酔っ払い達に小さく溜息を付きつつ、阿近は抱きかかえられた修兵に歩み寄る。


「修」


「……」


返事をしない修兵に、多少乱暴にその腕を引っ張る。
ずるりと修兵の身体が乱菊から離れ、その場に崩れ落ちた。


「修兵?」


「…き、もちわる…」


両手で口を覆い小さく呟いた修兵に、阿近は眉間に寄った皺を更に深くした。


「真っ昼間から呑み過ぎだ!」


「うぇぇ…」


そう一喝し、倒れた身体を抱きかかえる。
言葉と裏腹に、その態度は酷く優しい。
意識を飛ばしているイヅルの横に並べ、帯を緩めてやると、小さく修兵は息をついた。


「阿近さ…」


「黙って横になってろ。薬持って来るから」


青ざめた顔で何事か告げようとした彼を一蹴し、立ち上がる。


「…愛ね…」


「愛ッスね…」


その傍観者の言葉に、阿近は二人を振り返った。


「大体、どうしてこんなになるまで呑ませたんだ!」


その言葉に、今度は二人が牙を剥く。


「大体阿近さんが修兵を放っておくから悪いんでしょ!?」


「すっげぇ寂しそうで見てられなかったんですよ!?」


「しょんぼりしながら歩いてる姿見たらこっちが可哀想になって、無理やり連れて来たのよ!悪い!?」


息をつかせぬその言葉に、阿近は項垂れるしかない。


「…いや、すまなかったな」


「大事にしてあげてよね。あたし達の可愛い修兵なんだから」


その言葉に小さく阿近は吹き出した。
何処までも、大事にされる人間だと、改めて認識する。
イヅルと並び、紙のような顔色をしてる二人を見て、しょうがないかと諦める。
あの愛しい生き物は、自分だけのものではないのだ。
周囲から愛される、生き物なのだ。


「酔い覚まし持って来るから、大人しく寝てろよ」


「…はい…」


態度の柔らかくなった阿近に小さく頷き、修兵はその後ろ姿をぼんやりと眺めた。
あの人が居て、皆が居て、自分が居て。
愛しいものに囲まれて。
こんな日常が、いつまでも続けばいい。



窓の外は鮮やかな夕暮れ。
穏やかな、夏の一日。







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いただいちゃいましたリク小説!!キャホーゥッ
REDGUILTY・椿鬼さんからの相互記念なのですよ!
私が好きな服隊長ズを絡ませてください、そして思う存分阿修ってください
みたいなリクを(一部改竄あり・笑)したらこんなん来ちゃったvvv
死 に そ う 。(死んどけ)ハァハァ
なんか、もう、この、副隊長ズのへべれけっぷりがたまらないよね…!(共感を求めるな)
あぁもう皆大好きだ!乱菊さんのおっぱいに私も埋まりたい…ハァハァ
アコさんの怒りっぷりにも愛を感じる…キュン

椿鬼さん、萌えても萌えても萌えたりない素晴らしき小説をありがとうございましたvvv



2005.8.17



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